為政者の心得3

王曰く、
嗚呼、之を念へ。
伯父、伯兄、仲叔、季弟、幼子、童孫、
皆な朕が言を聴け、庶(こひねが)はくば格命有らん。
今爾慰するを日に勤めて由(もち)ひざること罔かれ、
爾戒めて勤めざること或る罔かれ。
天は民を済(ととの)へ、
我をして一日なら俾(し)む、
終るに非ざるも惟れ終るも、人に在り。
爾尚(ねが)はくば
敬(つつし)みて天命を逆(むか)へ、
以て我れ一人に奉ぜよ。
畏ると雖も畏る勿れ、休むと雖も休む勿れ。
惟れ五刑を敬み、以て三徳成る。
一人慶び有らば、兆民之を賴(こう)ぶる、
其れ寧(やす)く惟れ永からん、と。

穆王が言った。
ああ、これを想え。
我が同族の諸子よ、我が言葉を聴け。
我が言の天意に適うを望まん。
汝等、民を慰撫して日々勤むることを心掛けよ。
汝等、刑を施すに終始して慰撫の心を忘れてはならぬ。
天は民を整え、我にこの一日を授かれた。
来日の帰趨は未だ知らず、
天命を継ぎてまた一日を得るも、
天命に背きて今日で終えるも、
その禍福終始は人に在り。
汝等、願わくば敬みて天命を迎え、以て我を輔けよ。
畏るとも畏ること無かれ、休むとも休むこと無かれ。
ひたすら道を全うし、五刑を敬みて三徳を成せ。
人主の慶びは天下万民これを享受する。
民を安じて天意に適わば、
必ずやその治世は永きを得るであろう、と。


書経-周書[呂刑][5]

[注]

庶う(ねがう)
こいねがう。切に望む。それに近い状態をねがうこと。
〈成り立ち〉
广(げん)+廿(じゅう)+火。
广は厨房(ちゅうぼう)、廿は鍋などの器の形。
鍋の下に火を加え、烹炊(ぼうすい)を原義とする字。
もと炊き合わせたものをいい、それで庶多の意となる。
(字通)
下部は動物の頭廿印のあぶらを燃やすさま。
庶はそれに广いえを添えたもので、家の中で火を集め燃やすこと。
(漢字源)

俾む(しむ)
~させる。使役の語。
〈成り立ち〉
人+音符卑(薄く平らなスプーンに、手を添えた姿。)
召使の小者のこと。召し使うの意から、使役するの意となる。(漢字源)

尚う(ねがう)
こいねがう。神にいのる。相応以上のことを希望する。
〈成り立ち〉
向(こう)+八。向は窓の形。
光の入るところに、神を迎えて祀る。
上の八の形は、そこに神気があらわれ、ただようことを示す。
兄(祝)が祝祷して神気を歆(う)け、恍惚の状となることを兌(悅・脫)というように、八は神気を示す。
(字通)
向まど+八わかれる。空気抜きの窓から空気が上にたち上って、分散することを示す。
(漢字源)

逆える(むかえる)
迎える。向こうからくる人をむかえる。


字源-jigen.net-
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為政者の心得2

王曰く、
嗟、四方に政を司り獄を典(つかさど)る、
爾惟れ天牧作(た)るに非ずや。
今、爾何をか監みる。
時れ伯夷、刑を播(し)ひて
之れ迪(みちび)くに非ずや。
其れ今爾何をか懲らさん。
惟れ時(こ)れ苗民(びょうみん)、
獄の麗(つ)くを察するに匪(あら)ずや、
吉人を擇(えら)び五刑の中を観する罔(な)し。
惟れ時れ庶に威され、貨に奪はれ、五刑を断制して、
以て無辜を乱る、上帝蠲(ゆるさ)ず、
咎めを苗に降し、苗民、罰に辞無くして、
乃ち厥(そ)の世を絶つ、と。

穆王が言った。
ああ、四方の政治を司り、刑獄を典る諸侯よ、
汝等はこれを天より任ぜられたのではないのか。
今、汝等は何を以て鑑みるか。
鑑みるべきは、
伯夷が刑を布きて民を導きし所以の他に何があろうか。
それ今、汝等は何を懲らしめんとするか。
懲らしめんとすべきは、三苗氏の獄に付きて情を察せず、
苛烈に過ぎたる所以の他に何があろうか。
三苗氏は善良の徳ある者を択びて刑獄を任せず、
五刑の中を観ることが無かった。
その治世は権威権勢に屈し、
金銭賄賂にその中正は奪われ、
故に五刑を制定してこれを断ぜんするも、
苛烈に過ぎて罪無き者を裁くに至った。
上帝はこれを許さず、咎めを三苗氏に降した。
三苗氏はその罪を解くことを得ず、
故にその子孫は途絶えたのである、と。


書経-周書[呂刑][4]

[注]

蜀は牡(おす)の獣の形、その牡獣が角を以て争うのが觸、その牡の牡器を敺(う)って去勢するのが斀、紐などで強く縊(くく)って去勢するのが蠲。


麗は附なり、べったりと附く義。
易經「日月麗乎天、『太陽と月(二つの光)は天に付着して(光を発し)』」


字源-jigen.net-より
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為政者の心得

惟れ呂、命ぜらる。
王、国を享くるに百年耄荒(ぼうこう)し、
度して刑を作りて以て四方を詰む。
王曰く、
古に訓有り、
蚩尤(しゆう)惟れ始めて乱を作し、
延いて平民に及ぶまで寇賊せざるなく、
鴟義姦宄(しぎかんき)、
奪攘矯虔(だつじょうきょうけん)す。
苗民は霊を用ひず、制するに刑を以てし、
惟れ五虐の刑を作りて法と曰ふ。
無辜を殺戮し、爰に始めて淫にすぎ
劓刵椓鯨(ぎじたくげい)を為し、
茲(ここ)に麗(つ)くに越いて刑し、
并せて制して辞有るを差(わか)つなし。
民興りて胥(あ)ひ漸(あざむ)き、
泯泯棼棼(びんびんふんふん)として、
信に中ることなく、
以て詛盟(そめい)を覆(やぶ)る。
虐威せられし庶戮、方(まさ)に無辜なるを上に告ぐ。
上帝の民を監るに馨香の徳(のぼ)る有るなく、
刑を発聞するに惟れ腥(なまぐさ)し。
皇帝は庶戮の不辜なるを哀矜し、
虐に報ずるに威を以てし、
苗民を遏絶(あつぜつ)して
世をつぎ下に在ること無からしむ。
乃ち重黎に命じ、
地天の通を絶ちて、降格有るなし。
群后の逮(および)下に在るに、
明明にして常を棐(たす)け、
鰥寡(かんか)の蓋(おお)はる無し。
皇帝は下民に清問し、鰥寡は苗に辞有り。
徳は威にして惟れ畏る、
徳は明にして惟れ明なり。
乃ち三后に命じて、功を民に恤(めぐ)む。
伯夷は典を降して、民を折いて惟れ刑し、
禹は水土を平らげて、山川を主名し、
稷は播種するを降して、嘉穀を農殖す。
三后は功を成す、惟れ民を殷(さか)んにす。
士は百姓を刑の中に制して、
以て徳を祗(つつし)むるを教ふ。
穆穆は上に在り、明明は下に在り、
四方に灼(あきら)かなりて、
惟れ徳を勤めざるなし。
故に乃ち刑の中を明にし、
乂(おさ)めて民を率ひて棐彝(いひ)す。
獄を典るは威に訖(つく)すに非ず、
惟れ富に訖す。
敬忌して、擇言の身に在る有るなし。
惟れ天徳を克ひ、自ずと元命を作し、
配享して下に在り、と。

呂侯は司法官の長に任命された。
周の建国より百年、五代目を継いだ穆王は
老いて九十歳となり、風俗を正して
刑によって世を治めんとした。
穆王曰く、
古代の訓にいう、黄帝の時代に
蚩尤が乱を起こして人民を扇動し、
人々は賊を為すに至って
世には甚だしき悪事が蔓延った。
三苗氏は徳に由らずして刑を以て
世の乱れを治めんとし、
五虐の刑を作って法と呼んだ。
その刑は無辜の民を殺すに至り、
その苛烈さはあまりに過ぎたものであった。
少しでも刑法に触れる者があれば必ず刑し、
それを為した所以などは考慮されず、
善悪軽重の区別もなかったのである。
それ故、三苗氏の治めしところ、
人々は自然と欺き合うようになり、
世は乱れて信も無く、
互いに詛盟し合うことで信とするも、
やがてはその詛盟すらも破るようになった。
何千何万という民が刑によって裁かれるも
無実なるを訴える所なく、
遂には上天に罪無き旨を訴え告げた。
上天が三苗氏を鑑みれば、
そこに徳化の存する無くして
その刑法は当に悪行であった。
故に帝舜は無辜なる人々を哀矜し、
暴虐なるを威して三苗氏を討伐し、
その治めし地を継いで
人々の喘ぎを救ったのである。
帝舜は重と黎の二人に命じて天地の通を断ち、
人々の心を定まらせ、
禍福終始を妄りに神へと委ねることの無きようにした。
また、これに従う諸侯及び群臣百官も、
皆、公明正大にして常なる道を輔け、
善を善とし悪を悪としたが故に、
人々の心は正に帰するに至った。
帝舜が人々の声を少しの我意なく問うたところ、
老いも幼きもこぞって三苗氏の過を述べた。
故に帝舜は徳を以て治め、
これに従いて人々は徳の威によって自然と畏れ、
徳の明によって自然と明らかとなったのである。
帝舜は伯夷、禹、稷の三后に命じて人民のために功せんとし、
伯夷は禮典によりて民を導き、背けばこれを刑して正し、
禹は自然の流れに逆らうことなくして水土を治め、
名山大川を主名して以て大地を守し、
稷は農業の道を以て民に教え、五穀の実りを豊かにした。
このように三后が各々その功を成したので、
人々は富みて潤いその居に安んじて盛んとなった。
また、帝舜は皋陶を獄官の長として用い、
人々を刑の中に制して徳なるに帰せしめた。
上に在りし舜は威容あるもゆったりと構え、
下に在りし伯夷、禹、稷等は事を明らかにして見事に断ずるが故に、
その徳化は四方普く達し、徳を修めんと勤めざる者はいなかった。
故に帝舜は皋陶に命じて刑の中を明らかにし、
民が徳へと帰するを補ったのである。
刑獄を主りしは権威権勢に屈すること無きのみならず、
少しも金銭賄賂に惑わされることなく、
身を謹んで事々を処し、
公明正大にして私利私欲の無き様であった。
これ天徳に順い、自然と命を為し、
天と一なりて世を治むるに至りし所以なのである、と。


書経-周書[呂刑][1-3]

[注]
耄荒(ぼうこう)
老いた意。耄は八十または九十歳の老人をいう。

蚩尤(しゆう)
蚩尤。中国神話にみえる英雄神で、
様々な兵器を開発した神。軍神として畏怖された。

寇賊(こうぞく)
攻め込んで害をなすこと。

鴟義姦宄(しぎかんき)
盗みなどの悪事。鴟はふくろうのことで凶悪な人を喩える。

奪攘矯虔(だつじょうきょうけん)
物を奪うこと。

苗族(なえぞく)
苗族。三苗、尤苗などと呼ばれる。
蚩尤が討伐されて分化したという。

無辜(むこ)
罪のないこと。不辜。

淫(いん)
甚だしい様を示す。

劓刵椓鯨(ぎじたくげい)
鼻きり、耳きり、宮刑、面への入れ墨の刑。

漸(あざむ)
水がしみゆくような感じで広がること。

泯泯棼棼(びんびんふんふん)
泯泯は暗きこと。棼棼は乱れていること。

詛盟(そめい)
神に誓って約すること。

馨香(けいこう)
香の遠く聞こえること。

徳(のぼ)
登るに通ずる。

遏絶(あつぜつ)
一族を残らず滅ぼす。絶滅する。

明明(めいめい)
きわめて明らかな様。

鰥寡(かんか)
老いて妻無き者と夫無き者のこと。

恤む(めぐむ)
憂う、救う、心に従い、血を聲とする。

伯夷(はくい)
伯夷。舜によって秩宗を命じられ三礼を司った。
書経舜典。周初の伯夷・叔斉の伯夷とは別人。

主名(しゅめい)
大山や大川に名づけることをつかさどること。

后稷(こうしょく)
后稷。舜の臣下で農事を司る。
周の始祖である古公亶父の祖先であるともされる。

播種(はしゅ)
種まき。

嘉穀(かこく)
よい穀物のことで稲を指すことが多い。

刑の中(けいのちゅう)
刑が何かに偏ることなく超脱していることを示し、
清厳なるが故に従わざる負えない。

穆穆(ぼくぼく)
奥ゆかしく立派な様。目立って何かをするわけではないが、
威容ありて存在していること。

棐彝(ひい)
民の常徳を助けること。

訖(つく)
終わる意がある。

敬忌(けいき)
つつしみ戒めること。

配享(はいきょう)
主神と共に他の神も祭ること。祖を合わせて祀ること。
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人倫、世の秩序

惟れ十有三祀、王、箕子に訪ふ。
王乃ち言ひて曰く、
嗚呼、箕子、
惟れ天陰に下民を隲(さだ)め、
厥(そ)の居を相協す。
我れ其の彝倫(いりん)の
敍する攸(ところ)を知らず、と。
箕子乃ち言ひて曰く、
我れ聞く
在昔(さいせき)鯀(こん)の洪水を塞ぐ、
其の五行の陳(つら)ぬるを汨(みだ)る。
帝乃ち震怒して、
洪範九疇(こうはんきゅうちゅう)を與えず。
彝倫の敗れたる攸なり。
鯀則ち殛(きょく)して死し、
禹乃ち嗣ぎて興る。
天乃ち禹に洪範九疇を錫ふ。
彝倫の敍たる攸なり、と。

十三年、武王が箕子を訪ねて云った。
ああ、箕子、天は陰かに下民を定めて、
その居を保ちて安んずる。
(冥々の中に生民の住むべきところを定め、
その居となる大地を治めてととのえて下さる。)
我れはその彝倫が如何に
秩序立てられているかわからないのだ、と。
これに対して箕子が答えて云う。
私はこのように聞いています。
遥か昔、
鯀は洪水を治めるに水性に逆らって塞ぎ、
その五行の列を乱しました。
天帝はこれに震怒して、
洪範九疇を与えることはありませんでした。
これが彝倫の敗れたる所以です。
鯀が死して後に禹がこれを継ぎ、
天帝は禹に洪範九疇を賜いました。
これが彝倫の敍たる所以なのです、と。


書経-周書[洪範][1]

[注]
彝倫(いりん)
人として常に守るべき道。人倫。「彝」は常の意。

殛(きょく)
人を極所に陥れて罰する方法を亟、
これによって殺すことを殛、その場所を極。

字源-jigen.net-より
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人の上に立つ者の心得

人心は惟(こ)れ危く、道心は惟れ微なり、
惟れ精に惟れ一、允(まこと)に厥(そ)の中を執れ。
稽(かんが)ふる無きの言は聴く勿れ、
詢(と)はざるの謀は庸(もち)ふる勿れ。
愛す可きは君に非ずや、
畏る可きは民に非ずや、
衆や元后に非ざれば何をか戴かん、
后や衆に非ざれば與(とも)に邦を守る罔(な)し。
欽(つつし)めや、乃の有位を慎み、
敬して其の願ふ可きを修めよ、
四海困窮せば、天禄永く終はらん。

人心は私を為し易く、
道心は顕れ難きものである。
故に精一を旨とし、
道心を内に存して人心を従わせ、
常に中なるを執るのだ。
天理に存せざる言は聴かぬが善い、
天理に沿わざる謀は用いてはならない。
人君たれば父母の如くに民より愛され、
民を天地の如くに畏れ貴ばねばならぬ。
民はその生を人君に頼り、
そして人君はその民と共に在らずして
何を守るべきものがあるだろうか。
己を修めよ。
その尊位を慎み、敬を持して天徳を修めよ。
天下万民を安んぜざれば、
天よりの禄も終には途絶えよう。


書経-虞書[大禹謨][13-16]より
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